SUレター

相続事業承継と国際税務のSUパートナーズ税理士法人

国際税務Vol.10 国際的租税網CRSで丸裸! ~公平な社会?監視社会?~

国際的租税網CRSで丸裸!

国際税務Vol.10

~公平な社会?監視社会?~

 

こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の宮崎です。

 

皆さん、CRSという用語をご存知でしょうか。CIAではございません。

税理士以外の方で知っている方は、ドキッとしている方もいるようです。

 

CRSは、Common Reporting Standardの略で、日本語では、「共通報告基準」と言います。

経済協力開発機構OECD)では、経済活動全般を意見交換していますが、

その中に税の分野もあります。

今、世界では国家をまたがる脱税・租税回避が問題となっており、

OECDを中心に世界的に統一ルールを策定しようと動いています。

 

その中で、一つの成果として出たのが、CRS(共通報告基準)になります。

 

CRSとは・・・

前置きが長くなってしまいましたね。次に中身を見てみましょう。

 

国税庁HPには、

「各国の税務当局は、自国に所在する金融機関等から非居住者が保有する

金融口座情報の報告を受け、租税条約等の情報交換規定に基づき、

その非居住者の居住地国の税務当局に対しその情報を提供します。」

と記載があります。

 

例えば、日本居住者Aさんが、シンガポールに銀行口座を持っていたとしましょう。

その場合、シンガポールの銀行はAさんの名前・住所・納税者番号・

口座残高・利子や配当などの年間受取金額を、シンガポールの税務署に報告します。

そして、シンガポールの税務署は、その報告を受けた内容を、日本の税務当局に自動的に報告します。

この一連の流れが、CRSによる金融口座情報の自動的交換という制度になります。

 

CRS導入でどうなる?

 CRS導入により、日本の税務当局は、日本居住者が海外に持つ銀行口座や証券口座を自動的に入手することができます。

その情報を、提出済みの確定申告書と照合し、海外の利子や配当の記載が無ければ、

すぐに税務調査という流れになるでしょう。

 

税務当局にとっては、増差バブル!

納税者にとっては、納税地獄!

となるかもしれませんね。

 

ITが発達し、経済的に国境の壁が低くなってきたことで、

国際的脱税や租税回避が簡単に複雑に行われて来ました。

しかし、ついに、国同士が連携して、そのITを使って、

全世界の情報を集めようとしています。

 

国境なき世界連邦への一歩になるのか、グローバルな監視社会になるのか、

人類はどの方向へ向かっているのでしょう。

 

世界のリーダーあの国は入っていない!

CRSは、2017年6月時点で100か国・地域が導入を予定しています。

その中には、イギリス、イタリア、インド、ドイツ、フランス、オーストラリア、

中国など、大国が名を連ねています。

もちろん、ケイマン、BVI、パナマシンガポール、香港など

の有名なタックスヘイブン地域も含まれています

タックスヘイブン地域が入っていなければ、何も有効に機能しませんからね。

ただ、世界のリーダーと言われる、アメリカが入っていません

何故でしょうか。アメリカの見解としては、既に国内の法律で同様の制度があるため、

必要ないとしています。

その制度は、FATCA(通称ファトカ)と呼ばれ、

アメリカ人及び永住権保持者が国外に銀行口座がある場合、

その銀行は、毎年アメリカに報告しなければならないという制度です。

つまり、アメリカの徴税のための制度です。

☆ CRSは、お互いの国のための徴税システム。

☆ FATCAは、アメリカだけの徴税システム。

 

なぜ、FATCAを導入しているからCRSは必要ない、というのか理屈が分かりません。

さすが、アメリカ第一主義ですね!

ちなみに、トランプさんが決めたと思いきや、オバマさんの時代に決めていました。

アメリカ第一主義は、アメリカのアイデンティティなのでしょうか。。

 

これ以上書くと、アメリカに入国できなくなる?ので筆を置きたいと思います。

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相続・事業承継Vol.10 株式の機能①~事業承継における問題~

株式の機能①

相続・事業承継Vol.10~事業承継における問題~

 

こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の押味です。

 

暑い日が続きますが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

業種によって忙しい時期は異なると思いますが、

会計事務所にとって夏は比較的落ち着く時期といえます。

ただ、8月の前半には税理士試験がありますので、

「勝負の月」というイメージもあるのです。

 

さて今週からは “事業承継における株式の機能”をテーマに、まず

“そもそも株主の権利には何があるか”

“事業承継における問題”

という2点をご一緒にみていきたいと思います。

 

突然ですが、皆様の関わりのある会社で、次のような株主はいらっしゃいませんか?

もしいらっしゃる場合、後々大変なことになってしまうかもしれません。

  ・現経営者、後継者以外の多数の株主

  ・所在がわからない、連絡をとっていない株主

  ・「名義株主らしい」という株主

  ・現経営者、後継者に対して否定的な株主

  ・親族関係がない、遠い親族関係の株主

  ・後継者の兄弟姉妹

                    etc…

 

そもそも株主の権利には何があるか

株主は、

・配当などをもらう権利

・議決権

の2つの権利を持っているといえます。

事業承継ではこのうちの、議決権が問題となりがちです。

当然、議決権とは、

株主総会での決議を左右することができる権利≒会社の運営に関する重要な決定権」

で、基本的には単純な多数決で優劣が決まります。

 

また、この決議には、「普通決議」とちょっと厳格な「特別決議」があります。(特殊な「特殊決議」などは無視します)

この2つの決議は、「決議する内容」「会が成立するための議決権数」「可決するための議決件数」に違いがあります。

種類

決議する内容

成立するための数

可決するための数

普通決議

・役員の選任解任

・役員の報酬

など

過半数の出席

出席数のうち過半数

特別決議

・定款の変更

・組織再編

など

過半数の出席

出席数のうち2/3以上

※理解のために、極端に簡単に、かつ、焦点を絞って説明しています。

会社によっては事情が異なることがありますので、ご注意ください。※

 

 

事業承継における問題

それでは、議決権が問題となってしまう事例として、

”仲の良かった子供たち3人が、

事業承継をきっかけに不本意ながら仲たがいしてしまい、

結果的に事業に失敗してしまう物語”を、

議決権割合に注目しながら見てみましょう。

<事例>

【第一話】

父Aは、B商事㈱を設立し40年経営してきました。

その後3人の子供(長女C、長男D、次男E)に、数年かけて15%ずつ株式を贈与していました。

 

【第二話】

その後、父Aは事業を長男Dに継いでもらおうと思い、長男Dを副社長にしました。

しかし、Aは財産=株式を、平等に子供たちに残したいと考えており、

亡くなるまで保有割合はそのままでした。

長男Dを副社長にした後、父Aが急逝します。

長男Dが事業を承継することは家族全員が同意していましたが、

遺産分割協議では、株式については「父Aは平等に残したいと言っていた」

という意見があり、子供たちで1/3ずつ相続しました。

 

【第三話】

そして、父Aの死は急だったこともあり、

その後しばらく会社の業績は落ち込みましたが、

任された長男Dは死に物狂いで働き、なんとか持ちこたえていきました。

しかし、その間、従業員の気持ちを顧みることもできない場面もしばしば。

従業員は、常務である次男E(実質的に社内の切り盛りは常務の仕事だった)や、

経理部長として働いていた長女Cに不満を漏らすことも。

長女Cは、年上にもかかわらず長男Dや次男Eの陰にいて、

いままであまり日の当たってこなかった自分が今度は頼られる立場となったことで

使命感を持ちます。

Cは法律事務所に勤務する夫になんとなく相談したところ、

「CとEさんで議決権の過半数持っているなら解任できるよ」

と告げられます。

自宅などめぼしい財産を相続した長男Dに対して、

他人には漏らすことのできない不満、

自分でも気づかなかった不満があった次男Eは、長女Cに協力することに…。

 

<議決権>

上記の事例における議決権は、次のように変化しています。

                         【第一話】                                 【第二話】

父A:100%     →       父A…55%         

                   長女C…15%   →  長女C…33.3%

              長男D…15%      長男D…33.3%

              次男E…15%            次男E…33.3%

【第一話】の時点では「過半数を父Aが持っている」状態ですので、

父Aは基本的には思うがまま事業を行えるといえます。しかし、

【第二話】の時点でCDEが1/3ずつ持っており、

【第三話】の相続の結果、「過半数(66.6%)を長女Cと次男Eが持っている」状態に。そのため、この二人の思うままになります。

具体的には、「長男Dの解任」をすることもできてしまうのです…。

 

この事例では、本当に悪い人は一人もいませんが、

残念な結果になってしまったと言わざるを得ません。

 

 

事業承継と株式承継の関係

一口に「事業承継」といっても、一歩踏み込んで、

「事業」とはなにか?なにを「承継」するの?と考えてみると、

なかなか掴み難いものです。

 

なぜかというと、どの会社でも事業承継に当たっては、

数多くの乗り越えなければならない課題があり、

非常に長い時間を要する

からです。

そして、このSUレターで見てきた通り、数多くの課題の中でも、

ほぼ100%の会社が直面する課題が“株式の承継”なのです。

 

例えば冒頭のような株主がいる場合、事例のように

・株式が分散する

・後継者が経営しにくい

という、まさに「事業承継の弊害」となってしまうのです。

 

次回のSUレター 事承承継に役立つ?「種類株式」導入編①!

でも、実は、対応策はたくさんあります。

次回は、そんな対応策の中でも、「株式の機能」に焦点を絞っていきます。

ずばり、「種類株式」を活用した対応策のご紹介です。

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その他Vol.9 保険商品への驚き、再認識 (3)

保険商品への驚き、再認識  (3)

その他Vol.9

 

今回も、引き続き税理士の阿部が担当します。

 

金融商品のとある側面について

銀行の税務に所属していた頃、デリバティブをはじめとする金融商品の税務の取り扱いを検討するに際していつも感じていたことですが、

デリバティブ等の金融商品は、詮じ詰めればキャッシュフローの集まりにすぎない”ということです。

それを、典型的な様々な契約に当てはめたり、

様々な条件付けの中で独自の命名をしているのに過ぎないのです。

 

例えば、「預金取引」の命名や課税関係は

例えば、預金取引では、金融機関サイドに立つと、

最初に、預金を預かるキャッシュインフローがあり、これを「預金」と命名します。

次に、預金利子や満期金の払い出しをする際には「利子や預金の払い戻し」と命名します。

また、この「利子」と命名された部分は利子所得と認識され課税対象となるのです。

このようにキャシュアウトフローに名前をつけ、

様々な理由を付けて課税の有無や課税方法を国ごとに取り決めを行っているのです。

預金の利子だけでも、源泉課税だけで完了する場合もある一方、

海外の銀行に預けた利子は、総合課税とされることもあります。

また、預金の利子に課税しない国もあります。

 

キャッシュフロー集まりでしかないが…
このように、本来はキャッシュフローだけでしかないのに、

様々な色付けを行っているのに過ぎないのです。
特にこの事を感じたのは、私が銀行の税務部門に在籍していた当時、

「オプション付き定期預金」の販売に際して、課税関係を課税当局に相談し、

課税の方向性が決まった時でした。


この商品をご存じの方もおられると思いますが、この商品は

・預金者がオプション契約を結び、

・銀行から金利リスクや為替リスクを引き受ける代わりに、

・高額のオプションプレミアムを受領する

というもので、

オプションにより引き受けた「損失が預金元本を棄損させるリスク」の対価として、

高額のオプションプレミアムを受領できるという仕組みです。

オプションにおいては、

「プレミアムを受領したものがリスクテイクして損失を負担する」

か、

「オプションの行使が無ければプレミアムの分が儲かる」

というギャンブル性の高い金融商品です。


この、定期預金に組み込まれたオプションについて、

個人が受領したオプションプレミアムを「預金利子として源泉課税」されることが当局により決定され、

その金融商品は販売されて今日にいたっています。

 

私は、金融商品を見るたびに、本来はキャッシュフローだけであるのに、

そこに経済取引を当てはめて色づける法律、会計、

税務の常識に、“これは一体なんなんだ”と思うことがあるのです。

 

何せ、法人が引き受けたオプションプレミアムは「仮受金」で処理されますが、

個人が引き受けたオプションプレミアムは預金との複合商品となった場合には、

「預金利子」と名前を変えて源泉徴収の対象となるのですから。

 

保険も同じような側面がある

保険についても同様で、 保険商品を学んでみますと、

保険会社が預かるキャッシュインフローを「保険料」と命名し、

支払った側では、時に「保険料控除」の対象となり、法人契約では時に「損金」「預け金」として「資産計上」、また時によって「給与」扱い、などとされるのです。


そして、保険会社が保険事由が発生して支払うキャッシュアウトフローを「保険金」と命名して、課税関係も様々です。

 

まとめ

不動産や商品の譲渡対価として受けとるキャッシュや、

サービスの提供の対価として受けとるキャッシュと異なり、

金融商品“キャッシュの単なる交換取引”なので、無名性が高く、キャッシュフロー

従来の典型取引に“当てはめて名前を付さなければならない”という法律上、会計上、税務上の要請があるのです。

ですから、保険を含む金融商品の課税関係は、

いつも“これは一体全体「ナンジャラホイ」”という側面を持っているのだと思いますし、

一部の金融マンが、金融商品ごとの法律、会計、税務の適用の首尾一貫性の無さにあきれているのだと想像しています。

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国際税務Vol.9 海外で不当な課税を受けたら ~泣き寝入りしないために~

海外で不当な課税を受けたら

国際税務Vol.9

~泣き寝入りしないために~

 

経済のグローバル化が進み、海外の会社と取引する会社も増えています。制度、文化、法律等が異なる国との取引にはリスクが潜み、時には現地で不当な課税を受けることもあります。そんな時はどうしたらいいのでしょうか?

 

 

さて今週は国際取引に関する救済措置がテーマのSUレターです。

 

どういった課税問題があるか?

地球は広い。持参金が少ないからと火をつけられる花嫁がいたり、

自由恋愛は家族の名誉を汚すとして名誉殺人が行われたり、

本当に現代の話なのか?と耳を疑う出来事が起こっている国、地域があります。

日本人が考える「当たり前」のことは、海外では通用しないことも多々あり、

ビジネスにおいてもそれは常に心に留めておいておかねばなりません。

 

近年、海外取引を通じて現地で不当な課税を受ける日本企業が増加しています。

特にアジア新興国との取引に多く見られ、例えば・・・

移転価格税制は比較対象の精度が命なのに、

全く異なる業態、業種の企業間取引を比較対象とされた!

・海外からの一時的な出張者がPE(恒久的施設)として認定され、

現地で課税されてしまった!

・外国の子会社が日本の親会社に支払った技術指導料等

経費に算入することを制限された!

などなど。

そんな時、現地で争ったとしても勝つ見込みが薄いと最初からあきらめたり、

最初はがんばって抗戦しても途中で挫折して二重課税を受け入れてしまうケースが多いようです。

でも待って!

簡単にあきらめないでほしいのです。

 

租税条約に基づく“相互協議”を利用!

現地の当局とかけあっても埒が明かない場合、

国際法に基づく救済手段である租税条約に基づく相互協議を利用するという手もあります。

どちらにどれだけ取り分があるのが適切だよね、と課税当局間が話し合って、

二重課税が生じないように調和的な解決を図ってくれるのです。

 

ただし、協議には長時間を要することが多く、数年かかることはザラにあります。

制度に詳しい専門家の力を借りるとなるとコストがかかってしまうこともあります。

また、全ての案件が解決するわけではなく、未解決のまま放置されてしまうこともあるようです。

決して万能の手段ではありませんが、円満に解決したケースも多々あり(筆者も関わった経験があります!)

泣き寝入りする前に検討すべき方法であることは確かです。

 

WTOの制度を利用!

相互協議は租税条約に基づく税務の制度ですが、

WTO世界貿易機関)にも紛争解決に関する制度があり、

加盟国であれば提訴することが可能です。

この制度においては第三者による中立的な判断を期待でき、

比較的短期に解決を望むことができるようです。

 

 

外国でトラブルに遭遇するとパニックに陥り正常な判断力を失いがちですが、慌てず騒がず、

そして決してあきらめずに勇気を持って対処するように心がけたいものです。f:id:supt:20170612160350j:plain

相続・事業承継Vol.9 家族信託の怖〜いお話

家族信託の怖〜いお話

相続・事業承継Vol.9

 

“まずは後見制度について”

認知症になり法定後見人がつくと本人にかわって財産管理を行ってくれるのですが、

これはあくまで本人のための財産管理であり、

家族や第三者のために財産の活用、例えば相続対策などは出来なくなってしまいます。

成年後見制度では、財産の管理行為や処分行為が制限されているのです。

 

“家族信託について”

そこで、最近は親族を財産管理の受託者とする家族信託が流行っています。

しかし、家族信託は商事信託と異なり、個別性が高い上、

制度として新しい仕組みであり、

期間の長いことが多く様々なリスクを抱えることになることもあるのです。

今回、その怖いお話をご紹介しようと思います。

 

例えば…

例えば、

・父を委託者 兼 受益者

・甥を受託者 兼 残余財産の帰属権利者

とする信託契約を結んだとします。

この信託契約で、

・信託の終了事由として「受益者が死亡した場合」

と定めてあれば、その残余財産の帰属権利者である甥が、父の死亡=信託の終了によって、遺贈により残余財産を取得したものとみなし相続税が課されます

これは、受益者と帰属権利者が異なる場合には、

信託の終了の時点で経済価値が受益者の死亡により受益者から帰属権利者へ移動することから、

税務上は遺贈とみなして課税関係を定めたものです。

 

問題点は…?

問題なのは、上記の例と異なり、

・信託の終了事由に「受益者が死亡した場合」を掲げていない場合

で、

・信託契約で次の受益者の指定が無いときや、

・次の受益者に指定された者が死亡していたり(未だ出産していない)するとき

です。

このような信託契約で元々の受益者が死亡すると「受益者が存しない信託」となり、

税務上は下記のように、とんでもない課税が発生するのです。

 

甥が法人とみなされて、信託財産を受託者である甥(法人)に贈与したものとみなされます。その信託財産が不動産等の場合、所得税法上、個人から法人へ時価で譲渡したものとみなされます。

 

②受託者である甥が、無償で財産の受贈がされたものとして、法人税が課税されます。

 

③更に、受託者である甥は、父から遺贈を受けた者として相続税が課されます(上記②の法人税相当額は控除されます。)

 

まとめ

まさに、これでもか、これでもかと課税の波が押し寄せて来ることになるのです。

 

これも、信託契約において、受益者が死亡した場合の取り扱いを間違えたばかりに発生する悪夢なのです。

しかも、信託契約の変更は容易ではありません

信託契約を結んだ後、長い年月を経て、取り返しのつかない課税問題が明るみになることもあるのです。

 

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その他Vol.8 生命保険商品への驚き、再認識 (2)

生命保険商品への驚き、再認識 (2)

その他Vol.8

 

今回も、税理士の阿部が担当します。

 

生命保険契約自体は、巨額なキャッシュフローの固まりであり、

巨額なコミットメントであるにも関わらず、

保険契約の将来の支払いコミットメントや将来の保険料収入は、

保険会社の貸借対照表に直接記載されることはありません


責任準備金を通じてコミットメントを間接的に貸借対照表に表現することはあっても、

不思議なことに債務の確定した負債と認識されることはありません

 

保険商品は、死亡率や、その裏返しの生存率の予測に基づき、超長期の支払いコミットメントが見積もられます。その誤差を見込んでいるとはいえ、何とも不確実性を含む金融商品です。
 更に、それよりも不確実性が高いのが、20年、30年いやそれ以上の長期の運用の予定利率をコミットメントしていることです。
現在のようなマイナス金利による運用難の状況で、過去に高い予定利率での運用をコミットメントしていた場合、将来のキャシュアウトフローを個別のヘッジが手当てされるような方策を講じていなければ、リスクを抱えることになりますし、低い運用下での魅力ある保険商品の販売は困難となります。
世界中の金融機関や、機関投資家の運用難のなか、保険会社も運用の高度化を行って、支払いコミットメントを履行しなくはならないのです。

保険会社の収益を決める三大要素は、「死亡率」、運用の「予定利率」、オペレイションにかかる費用に関する「事業費率」と言われますが、いずれも長期に渡る不確実性をはらんでいます。

その様な観点から、保険会社は、金利リスクの巨額な固まり、キャッシュフローの長期に渡る固まりと思うと、本当に凄い舵取りが要請されるビジネス経営だと思え、改めて畏敬の念を抱かざるを得ません。
現在、最適の保険商品と思って販売しても、何十年後に支払いコミットメントの履行に苦しむ状況になっているかもしれないからです。

このような事を書いたのは保険会社への不安を書きたてることを目的としているものではありません。どの保険会社もリスク管理が徹底して行われています。ただ、銀行に19年勤めて見・聞きしたキャッシュフロー保険業の取り扱っているキャッシュフローの違いに目をみはらされるものを感じているからです。

それは、個人的な感想で、銀行により異なると思いますが、銀行が金利や為替のリスクヘッジする際、感応度によるデュレイションによるヘッジが中心であったのに比べ、保険会社がキャッシュフローヘッジやVaRも使ってよりリスクに対する感覚が研ぎ澄まされているのにように感じるのです。
 同じ金融機関ではありますが、銀行と保険ではリスクへの取り組みも随分と違うものだと思い始めました。

国際税務Vol.8 移転価格のリスク~保険は必要なのか?~

移転価格のリスク

国際税務Vol.8

~保険は必要なのか?~

 

こんにちは。

季節はずれの暑さが続き、梅雨へと突入するこの時期、体調を崩されたりしていないでしょうか。

そろそろ紫陽花の見ごろとなります。有名な鎌倉のお寺は激混みなので気合と体力が必要ですが、何気なく通りに咲いている紫陽花を眺めるのも風情があっていいものです。

 

国際取引をしていると、移転価格の問題とは無縁ではいられなくなります。

二国間による税金の取り合いという、仁義なき戦いです。

運悪くその渦に巻き込まれる前に、何か予防する方法はないものなのでしょうか?

 

さて今週は移転価格に関する事前確認制度がテーマのSUレターです。

 

予防するにはどうしたらいいかというと 

コスト意識の高いグローバル企業は各国の税率の違いに着目し、

より低い税率の国に所得を集めて節税しようとします。

関連者間であるがゆえに、取引価格の設定に自由度があるため、

その気になればかなり大胆な節税も可能となります。

しかしながらそういった行為は当然当局から許してもらえず、

移転価格税制が発足する運びとなりました。

 

移転価格税制のやっかいなところは、何をもって適正価格であるかを示すことが容易でない点にあります。

企業側に節税の意図はなくてもその設定価格にイチャモンをつけられ、

あれよあれよという間に多額の追徴課税を受けることもあるのです。

会社としては真面目な納税者でありたいと思っているのに、

ある日突然理不尽な課税を受ける不安を抱えながら海外取引をするのもストレスですね。

それがイヤだ!と感じる企業は事前確認制度(Advance Pricing Agreement –“APA”(某ホテルチェーンと同じ発音ではありません。通称”エーピーエー”といいます)を利用することを検討すべきかもしれません。

 

事前確認制度とは

これは、企業が今後数年間行う国外関連取引の価格設定について、

税務当局から事前に確認を取る制度となります。

このAPAを取得した場合、合意された移転価格算定方法に基づく納税を行う限り移転価格課税が行われることはありません。

いわば、税務当局から移転価格にお墨付きをもらうわけです。

 

この制度には一国内のユニラテラルAPA、二国間のバイラテラルAPA、さらには複数国間のマルチラテラルAPAがあります。

ユニラテラルAPAは自国内だけでの確認であるため、

外国の税務当局から課税を受けるリスクを回避することができません。

したがってほとんどがバイラテラルAPA(時にマルチラテラルAPA)となります。

 

導入は?

事前に予防できる制度があるなら、ぜひともすぐに取り入れたいのですが、

決して簡単なプロセスではないのがネックとなります。

 

二国、または複数国の税務当局の相互協議を経るため、

成立までにかなり時間を要します

また、必要な文書作成や当局との対応には相当の専門知識と経験が必要なため、

外部のアドバイザーの手を借りずに行うことはほぼ不可能となり、それなりのコストもかかります。

 

悩ましいところですが、通常の税務調査より遥かに会社側の負担がとても大きい移転価格調査を回避できるのであれば・・・費用対効果を考え、保険として導入することも一考の価値ありなのです。

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相続・事業承継Vol.8 賃貸不動産をお持ちの方へ。生命保険の活用を ~“相続対策”に一工夫~

賃貸不動産をお持ちの方へ。生命保険の活用を 

 相続・事業承継Vol.6

~“相続対策”に一工夫~

 

こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の押味です。

 

“相続対策なんてしない”はたまた“賃貸不動産で対策は十分だ!”

と思っている方は多いのではないでしょうか。

しかし、相続税を減らすこと=相続対策、ではありません。

また、財産をお持ちの方が実際に困難に直面するのは“納税”だけではありません。

 

今週はそんな生命保険を活用した賃貸不動産に関する対策がテーマのSUレターです。

生命保険といっても、節税ではございません。営業でもございません。

 

税金を減らす目的ではない

 結論から言うと、「生命保険を活用して、財産を保全しよう!」という内容です。

 「保険」と聞くと拒否反応が起きる方もいらっしゃるかもしれません。

社長様や資産家の方には、多くの営業が入りますので嫌気がさしているのかもしれません。 

大丈夫です、営業でも、節税目的のアグレッシブな内容でもございません。

 

賃貸不動産のリスクとされるのは、つまり何か?

 まず、賃貸不動産を持つことに関する大きな不安とその本質を考えてみます。

  • 修繕費負担…修繕を定期的に行う必要がある
  • 納税に苦しむ…財産の大半が不動産だと現金化できない
  • 争続の元…不動産は分割できないし、共有は避けたい

 このあたりでしょうか。これらの本質は何か。それは「現金・収入」があれば解決することです。

さらに言えば、こういったお金について、「計画的に準備できれば、解決される」といえる点に、肝があります。

 

何年でも何十年であろうと計画的に準備ができる方はこれ以降のお話は必要ありません。しかし、お金は、あると使ってしまうのが人の性です。

お金には色がついていません。また、相続は突然起きます。

 

そこで生命保険を活用

どのように生命保険を活用するのかというと、賃貸不動産の特徴、長所を生かすことです。

特徴…修繕費は、“修繕計画”である程度時期が見込める

長所…毎月収入がある(入居率にもよりますが、当初は高入居率のはず…)

 

 これらの特徴や長所を活かして、例えば次のように考えます。

  • 解約の時期を見越して、修繕予定の前に払い込みが終わる保険(短期払い)に加入して、修繕費対策
  • 法人を通して物件を保有している場合には、長期平準定期保険に加入し退職金に充てて、納税資金対策!
  • 財産の承継者から他の相続人への代償分割(不動産はAさんがもらう代わりに、現金をAさんからBさんやCさんに渡すこと)で、争続対策

 

いかがでしょうか?

他にも考え方次第で工夫の余地はたくさんあります。

 

賃貸不動産を持つことが相続税(節税)対策として機能することは事実だと思います。

ただ、デメリット(借入金や上記のようなリスク)も昨今話題になっています。

 

せっかくの資産や対策を、もう一工夫して安心して更に有効なものにしてはいかがでしょうか。

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その他Vol.7 生命保険商品への驚き、再認識 (1)

生命保険商品への驚き、再認識 (1)

~その他Vol.7~

超長期のコミットメント


今回は税理士の阿部が担当します。

 

銀行員時代の先輩の縁がもとで、とある生命保険会社の社外取締役に就任いたしました。

それまで、税務の面から生命保険の関係することはあっても、

正直生命保険には全くと言っていいほど関心もなく、内容がよくわからず、

どちらかというと敬遠している分野でした。

しかし、お引き受けする以上は、と生命保険の勉強を始めてみると、

この分野の凄さに驚かされました。

 

まず、生命保険契約は、保険料を払い込んで貰い、保険事由が発生した場合に保険金を支払うという超長期に渡る支払いコミットメント行っていることです。

 

痩せる結果をコミットメントする会社がありますが、

結果がでなければお金を返金するというコミットメント商売がオオハヤリです。

 

生命保険は受け取った保険料を一定の利回りで運用し、5年、10年、20年、

時に30年以上に渡り、保険事由が発生したならば必ず保険支払いをコミットメントするという、超長期間のコミットメント契約だということです。

 

金利情勢、為替情勢、経済が日々激動する中にあって、

一定の利回りを確保する生命保険は何というリスク引き受けのビジネスなのか改めて脅かされるばかりです。

このような、超長期のコミットメントをする金融ビジネスは外にないでしょう。


銀行で取り扱っている定期預金でさえ3年や5年といった期間の支払いのコミットメントです。

銀行間の貸借においては、コール市場でオーバーナイトという一夜越しの貸借もあり、

とても生命保険のように超長期の支払いをコミットメントする金融ビジネスはないのです。

保険商品は全く驚きの金融商品です。

 

そして、一旦保険商品を販売すると一契約金額が数百万円から数千万円、

時に億にはものぼるので、保険会社の保険商品の契約金額総額はとてつもない金額となり、

一保険商品で、支払いをコミットメントする金額は数千億円にものぼりますので、

保険会社全体の抱えるリスクエックスポージャーは莫大な金額になるのです。

 

実際、過去に発売した高い予定利率の契約による満期金等の支払いが、保険会社の運用利回りを大きく上回ってしまったことで、支払いコミットメント履行出来なくなり、

1997年の日産生命、1999年の東邦生命と全部で7社もの生命保険が破綻しました。

幸い、すべての保険会社の保険内容を変更しながらも、

他の生命保険会社に引き継がれていますので、最悪の事態は回避されています。

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国際税務Vol.7 海外出向者に支払う留守宅手当の税務 ~日本の扶養家族に支払う留守宅手当の取扱い~

海外出向者に支払う留守宅手当の税務  

国際税務Vol.7

~日本の扶養家族に支払う留守宅手当の取扱い~

 

こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の宮崎です。

 

さて、今週は国際税務がテーマになります。

 

あるお客様から、下記のような質問がありました。

海外の子会社に従業員を5年ほど派遣する予定だが、

会社の規定で留守宅手当を支払うことになっている。この留守宅手当とは何ですか?

また、留守宅手当を支給した場合の税務を教えてください。」

 

さて、留守宅手当とは何でしょうか。また、税務の取扱いはどうなるのでしょうか。

 

留守宅手当とは、

留守宅手当は、「海外単身赴任手当」や「海外別居手当」、「残留家族特別加算」などの様々な名目で支払われることがあり、「国内社会保険料相当分」「国内残留家族生活費相当分」のいずれか、又は両方の意味合いで支払われます。

 

なぜ留守宅手当を支払うのか

では、留守宅手当が、どのような考えに基づいて設定され、

支給されているのか又それらの支給に関する留意点などを述べたいと思います。

 

国内社会保険料相当部分として支給される手当は、在籍出向させる場合、海外勤務中でも日本の社会保険料が発生するため、この社会保険料に相当する金額の補てんとして、会社が留守宅手当の中に含め為替変動によるリスクを回避できるよう配慮して円貨建てで支給し、会社はそこから個人負担分保険料を天引きすることになります。

 

国内残留家族対応分として支給される手当は、一部又は全ての家族が日本国内に残留した場合に支給される手当です。

こちらも為替変動によるリスクを回避するため円貨建てで支払われます。この手当は別居を余儀なくされることによる住居費、通信費、留守宅維持費用など日本で生ずる費用に対応する金額となります。

 

税務の取扱いは

留守宅手当の税務での取扱いですが、まず、この従業員が税法上、居住者に該当するのか、非居住者に該当するのか判定する必要があります。

税法上、居住者とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する者とされています。

また、非居住者とは、居住者以外の者とされています。

 

海外赴任の場合、海外赴任期間が1年以上の予定の者は、出国時に非居住者とされます。今回海外派遣する従業員は、5年間の予定で海外赴任しますので、出国時から非居住者に該当します。

 

非居住者は国内源泉所得のみが課税され、国外源泉所得は課税されないこととなっています。

今回支給する留守宅手当は、この従業員が海外で勤務をすることに基因して日本の家族に支給されます。

つまり、国外勤務を基因として行われるので、税法上は国外源泉所得となります。

したがって、この留守宅手当は、非居住者が受ける国外源泉所得となりますので、日本での課税はありません

 

海外で課税される可能性!?

日本で課税されないということで喜んではいけません。

海外勤務地の国で課税される可能性があります。

海外の国では、日本と同様に居住者には全世界所得を課税するという国が多いです。

 

今回の従業員は、日本では非居住者ですが、海外勤務地国では居住者になります。

そのため、海外勤務地国では全世界所得に課税される可能性があります。

この全世界所得には留守宅手当も例外ではないでしょう。

 

そのため、海外勤務地国での税法を調べ、納税が必要な場合は、必ず納税しましょう。

 

ここで、日本法人が直接日本の口座に支払っているのに、海外の税務当局は分かるの?と疑問を持たれる方もいると思います。

海外税務当局は、お金の動きは分かりませんが、留守宅手当制度の存在は把握していて、日本側で留守宅手当の支給がないか執拗に調べることもあります。

そのため、正しく納税しておいたほうが無難でしょう。f:id:supt:20170328170851j:plain