SUレター

相続事業承継と国際税務のSUパートナーズ税理士法人

国際税務Vol.9 海外で不当な課税を受けたら ~泣き寝入りしないために~

海外で不当な課税を受けたら

国際税務Vol.9

~泣き寝入りしないために~

 

経済のグローバル化が進み、海外の会社と取引する会社も増えています。制度、文化、法律等が異なる国との取引にはリスクが潜み、時には現地で不当な課税を受けることもあります。そんな時はどうしたらいいのでしょうか?

 

 

さて今週は国際取引に関する救済措置がテーマのSUレターです。

 

どういった課税問題があるか?

地球は広い。持参金が少ないからと火をつけられる花嫁がいたり、

自由恋愛は家族の名誉を汚すとして名誉殺人が行われたり、

本当に現代の話なのか?と耳を疑う出来事が起こっている国、地域があります。

日本人が考える「当たり前」のことは、海外では通用しないことも多々あり、

ビジネスにおいてもそれは常に心に留めておいておかねばなりません。

 

近年、海外取引を通じて現地で不当な課税を受ける日本企業が増加しています。

特にアジア新興国との取引に多く見られ、例えば・・・

移転価格税制は比較対象の精度が命なのに、

全く異なる業態、業種の企業間取引を比較対象とされた!

・海外からの一時的な出張者がPE(恒久的施設)として認定され、

現地で課税されてしまった!

・外国の子会社が日本の親会社に支払った技術指導料等

経費に算入することを制限された!

などなど。

そんな時、現地で争ったとしても勝つ見込みが薄いと最初からあきらめたり、

最初はがんばって抗戦しても途中で挫折して二重課税を受け入れてしまうケースが多いようです。

でも待って!

簡単にあきらめないでほしいのです。

 

租税条約に基づく“相互協議”を利用!

現地の当局とかけあっても埒が明かない場合、

国際法に基づく救済手段である租税条約に基づく相互協議を利用するという手もあります。

どちらにどれだけ取り分があるのが適切だよね、と課税当局間が話し合って、

二重課税が生じないように調和的な解決を図ってくれるのです。

 

ただし、協議には長時間を要することが多く、数年かかることはザラにあります。

制度に詳しい専門家の力を借りるとなるとコストがかかってしまうこともあります。

また、全ての案件が解決するわけではなく、未解決のまま放置されてしまうこともあるようです。

決して万能の手段ではありませんが、円満に解決したケースも多々あり(筆者も関わった経験があります!)

泣き寝入りする前に検討すべき方法であることは確かです。

 

WTOの制度を利用!

相互協議は租税条約に基づく税務の制度ですが、

WTO世界貿易機関)にも紛争解決に関する制度があり、

加盟国であれば提訴することが可能です。

この制度においては第三者による中立的な判断を期待でき、

比較的短期に解決を望むことができるようです。

 

 

外国でトラブルに遭遇するとパニックに陥り正常な判断力を失いがちですが、慌てず騒がず、

そして決してあきらめずに勇気を持って対処するように心がけたいものです。f:id:supt:20170612160350j:plain

相続・事業承継Vol.9 家族信託の怖〜いお話

家族信託の怖〜いお話

相続・事業承継Vol.9

 

“まずは後見制度について”

認知症になり法定後見人がつくと本人にかわって財産管理を行ってくれるのですが、

これはあくまで本人のための財産管理であり、

家族や第三者のために財産の活用、例えば相続対策などは出来なくなってしまいます。

成年後見制度では、財産の管理行為や処分行為が制限されているのです。

 

“家族信託について”

そこで、最近は親族を財産管理の受託者とする家族信託が流行っています。

しかし、家族信託は商事信託と異なり、個別性が高い上、

制度として新しい仕組みであり、

期間の長いことが多く様々なリスクを抱えることになることもあるのです。

今回、その怖いお話をご紹介しようと思います。

 

例えば…

例えば、

・父を委託者 兼 受益者

・甥を受託者 兼 残余財産の帰属権利者

とする信託契約を結んだとします。

この信託契約で、

・信託の終了事由として「受益者が死亡した場合」

と定めてあれば、その残余財産の帰属権利者である甥が、父の死亡=信託の終了によって、遺贈により残余財産を取得したものとみなし相続税が課されます

これは、受益者と帰属権利者が異なる場合には、

信託の終了の時点で経済価値が受益者の死亡により受益者から帰属権利者へ移動することから、

税務上は遺贈とみなして課税関係を定めたものです。

 

問題点は…?

問題なのは、上記の例と異なり、

・信託の終了事由に「受益者が死亡した場合」を掲げていない場合

で、

・信託契約で次の受益者の指定が無いときや、

・次の受益者に指定された者が死亡していたり(未だ出産していない)するとき

です。

このような信託契約で元々の受益者が死亡すると「受益者が存しない信託」となり、

税務上は下記のように、とんでもない課税が発生するのです。

 

甥が法人とみなされて、信託財産を受託者である甥(法人)に贈与したものとみなされます。その信託財産が不動産等の場合、所得税法上、個人から法人へ時価で譲渡したものとみなされます。

 

②受託者である甥が、無償で財産の受贈がされたものとして、法人税が課税されます。

 

③更に、受託者である甥は、父から遺贈を受けた者として相続税が課されます(上記②の法人税相当額は控除されます。)

 

まとめ

まさに、これでもか、これでもかと課税の波が押し寄せて来ることになるのです。

 

これも、信託契約において、受益者が死亡した場合の取り扱いを間違えたばかりに発生する悪夢なのです。

しかも、信託契約の変更は容易ではありません

信託契約を結んだ後、長い年月を経て、取り返しのつかない課税問題が明るみになることもあるのです。

 

f:id:supt:20170612155924j:plain

 

その他Vol.8 生命保険商品への驚き、再認識 (2)

生命保険商品への驚き、再認識 (2)

その他Vol.8

 

今回も、税理士の阿部が担当します。

 

生命保険契約自体は、巨額なキャッシュフローの固まりであり、

巨額なコミットメントであるにも関わらず、

保険契約の将来の支払いコミットメントや将来の保険料収入は、

保険会社の貸借対照表に直接記載されることはありません


責任準備金を通じてコミットメントを間接的に貸借対照表に表現することはあっても、

不思議なことに債務の確定した負債と認識されることはありません

 

保険商品は、死亡率や、その裏返しの生存率の予測に基づき、超長期の支払いコミットメントが見積もられます。その誤差を見込んでいるとはいえ、何とも不確実性を含む金融商品です。
 更に、それよりも不確実性が高いのが、20年、30年いやそれ以上の長期の運用の予定利率をコミットメントしていることです。
現在のようなマイナス金利による運用難の状況で、過去に高い予定利率での運用をコミットメントしていた場合、将来のキャシュアウトフローを個別のヘッジが手当てされるような方策を講じていなければ、リスクを抱えることになりますし、低い運用下での魅力ある保険商品の販売は困難となります。
世界中の金融機関や、機関投資家の運用難のなか、保険会社も運用の高度化を行って、支払いコミットメントを履行しなくはならないのです。

保険会社の収益を決める三大要素は、「死亡率」、運用の「予定利率」、オペレイションにかかる費用に関する「事業費率」と言われますが、いずれも長期に渡る不確実性をはらんでいます。

その様な観点から、保険会社は、金利リスクの巨額な固まり、キャッシュフローの長期に渡る固まりと思うと、本当に凄い舵取りが要請されるビジネス経営だと思え、改めて畏敬の念を抱かざるを得ません。
現在、最適の保険商品と思って販売しても、何十年後に支払いコミットメントの履行に苦しむ状況になっているかもしれないからです。

このような事を書いたのは保険会社への不安を書きたてることを目的としているものではありません。どの保険会社もリスク管理が徹底して行われています。ただ、銀行に19年勤めて見・聞きしたキャッシュフロー保険業の取り扱っているキャッシュフローの違いに目をみはらされるものを感じているからです。

それは、個人的な感想で、銀行により異なると思いますが、銀行が金利や為替のリスクヘッジする際、感応度によるデュレイションによるヘッジが中心であったのに比べ、保険会社がキャッシュフローヘッジやVaRも使ってよりリスクに対する感覚が研ぎ澄まされているのにように感じるのです。
 同じ金融機関ではありますが、銀行と保険ではリスクへの取り組みも随分と違うものだと思い始めました。

国際税務Vol.8 移転価格のリスク~保険は必要なのか?~

移転価格のリスク

国際税務Vol.8

~保険は必要なのか?~

 

こんにちは。

季節はずれの暑さが続き、梅雨へと突入するこの時期、体調を崩されたりしていないでしょうか。

そろそろ紫陽花の見ごろとなります。有名な鎌倉のお寺は激混みなので気合と体力が必要ですが、何気なく通りに咲いている紫陽花を眺めるのも風情があっていいものです。

 

国際取引をしていると、移転価格の問題とは無縁ではいられなくなります。

二国間による税金の取り合いという、仁義なき戦いです。

運悪くその渦に巻き込まれる前に、何か予防する方法はないものなのでしょうか?

 

さて今週は移転価格に関する事前確認制度がテーマのSUレターです。

 

予防するにはどうしたらいいかというと 

コスト意識の高いグローバル企業は各国の税率の違いに着目し、

より低い税率の国に所得を集めて節税しようとします。

関連者間であるがゆえに、取引価格の設定に自由度があるため、

その気になればかなり大胆な節税も可能となります。

しかしながらそういった行為は当然当局から許してもらえず、

移転価格税制が発足する運びとなりました。

 

移転価格税制のやっかいなところは、何をもって適正価格であるかを示すことが容易でない点にあります。

企業側に節税の意図はなくてもその設定価格にイチャモンをつけられ、

あれよあれよという間に多額の追徴課税を受けることもあるのです。

会社としては真面目な納税者でありたいと思っているのに、

ある日突然理不尽な課税を受ける不安を抱えながら海外取引をするのもストレスですね。

それがイヤだ!と感じる企業は事前確認制度(Advance Pricing Agreement –“APA”(某ホテルチェーンと同じ発音ではありません。通称”エーピーエー”といいます)を利用することを検討すべきかもしれません。

 

事前確認制度とは

これは、企業が今後数年間行う国外関連取引の価格設定について、

税務当局から事前に確認を取る制度となります。

このAPAを取得した場合、合意された移転価格算定方法に基づく納税を行う限り移転価格課税が行われることはありません。

いわば、税務当局から移転価格にお墨付きをもらうわけです。

 

この制度には一国内のユニラテラルAPA、二国間のバイラテラルAPA、さらには複数国間のマルチラテラルAPAがあります。

ユニラテラルAPAは自国内だけでの確認であるため、

外国の税務当局から課税を受けるリスクを回避することができません。

したがってほとんどがバイラテラルAPA(時にマルチラテラルAPA)となります。

 

導入は?

事前に予防できる制度があるなら、ぜひともすぐに取り入れたいのですが、

決して簡単なプロセスではないのがネックとなります。

 

二国、または複数国の税務当局の相互協議を経るため、

成立までにかなり時間を要します

また、必要な文書作成や当局との対応には相当の専門知識と経験が必要なため、

外部のアドバイザーの手を借りずに行うことはほぼ不可能となり、それなりのコストもかかります。

 

悩ましいところですが、通常の税務調査より遥かに会社側の負担がとても大きい移転価格調査を回避できるのであれば・・・費用対効果を考え、保険として導入することも一考の価値ありなのです。

f:id:supt:20170328174749j:plain

相続・事業承継Vol.8 賃貸不動産をお持ちの方へ。生命保険の活用を ~“相続対策”に一工夫~

賃貸不動産をお持ちの方へ。生命保険の活用を 

 相続・事業承継Vol.6

~“相続対策”に一工夫~

 

こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の押味です。

 

“相続対策なんてしない”はたまた“賃貸不動産で対策は十分だ!”

と思っている方は多いのではないでしょうか。

しかし、相続税を減らすこと=相続対策、ではありません。

また、財産をお持ちの方が実際に困難に直面するのは“納税”だけではありません。

 

今週はそんな生命保険を活用した賃貸不動産に関する対策がテーマのSUレターです。

生命保険といっても、節税ではございません。営業でもございません。

 

税金を減らす目的ではない

 結論から言うと、「生命保険を活用して、財産を保全しよう!」という内容です。

 「保険」と聞くと拒否反応が起きる方もいらっしゃるかもしれません。

社長様や資産家の方には、多くの営業が入りますので嫌気がさしているのかもしれません。 

大丈夫です、営業でも、節税目的のアグレッシブな内容でもございません。

 

賃貸不動産のリスクとされるのは、つまり何か?

 まず、賃貸不動産を持つことに関する大きな不安とその本質を考えてみます。

  • 修繕費負担…修繕を定期的に行う必要がある
  • 納税に苦しむ…財産の大半が不動産だと現金化できない
  • 争続の元…不動産は分割できないし、共有は避けたい

 このあたりでしょうか。これらの本質は何か。それは「現金・収入」があれば解決することです。

さらに言えば、こういったお金について、「計画的に準備できれば、解決される」といえる点に、肝があります。

 

何年でも何十年であろうと計画的に準備ができる方はこれ以降のお話は必要ありません。しかし、お金は、あると使ってしまうのが人の性です。

お金には色がついていません。また、相続は突然起きます。

 

そこで生命保険を活用

どのように生命保険を活用するのかというと、賃貸不動産の特徴、長所を生かすことです。

特徴…修繕費は、“修繕計画”である程度時期が見込める

長所…毎月収入がある(入居率にもよりますが、当初は高入居率のはず…)

 

 これらの特徴や長所を活かして、例えば次のように考えます。

  • 解約の時期を見越して、修繕予定の前に払い込みが終わる保険(短期払い)に加入して、修繕費対策
  • 法人を通して物件を保有している場合には、長期平準定期保険に加入し退職金に充てて、納税資金対策!
  • 財産の承継者から他の相続人への代償分割(不動産はAさんがもらう代わりに、現金をAさんからBさんやCさんに渡すこと)で、争続対策

 

いかがでしょうか?

他にも考え方次第で工夫の余地はたくさんあります。

 

賃貸不動産を持つことが相続税(節税)対策として機能することは事実だと思います。

ただ、デメリット(借入金や上記のようなリスク)も昨今話題になっています。

 

せっかくの資産や対策を、もう一工夫して安心して更に有効なものにしてはいかがでしょうか。

f:id:supt:20170328174051j:plain

その他Vol.7 生命保険商品への驚き、再認識 (1)

生命保険商品への驚き、再認識 (1)

~その他Vol.7~

超長期のコミットメント


今回は税理士の阿部が担当します。

 

銀行員時代の先輩の縁がもとで、とある生命保険会社の社外取締役に就任いたしました。

それまで、税務の面から生命保険の関係することはあっても、

正直生命保険には全くと言っていいほど関心もなく、内容がよくわからず、

どちらかというと敬遠している分野でした。

しかし、お引き受けする以上は、と生命保険の勉強を始めてみると、

この分野の凄さに驚かされました。

 

まず、生命保険契約は、保険料を払い込んで貰い、保険事由が発生した場合に保険金を支払うという超長期に渡る支払いコミットメント行っていることです。

 

痩せる結果をコミットメントする会社がありますが、

結果がでなければお金を返金するというコミットメント商売がオオハヤリです。

 

生命保険は受け取った保険料を一定の利回りで運用し、5年、10年、20年、

時に30年以上に渡り、保険事由が発生したならば必ず保険支払いをコミットメントするという、超長期間のコミットメント契約だということです。

 

金利情勢、為替情勢、経済が日々激動する中にあって、

一定の利回りを確保する生命保険は何というリスク引き受けのビジネスなのか改めて脅かされるばかりです。

このような、超長期のコミットメントをする金融ビジネスは外にないでしょう。


銀行で取り扱っている定期預金でさえ3年や5年といった期間の支払いのコミットメントです。

銀行間の貸借においては、コール市場でオーバーナイトという一夜越しの貸借もあり、

とても生命保険のように超長期の支払いをコミットメントする金融ビジネスはないのです。

保険商品は全く驚きの金融商品です。

 

そして、一旦保険商品を販売すると一契約金額が数百万円から数千万円、

時に億にはものぼるので、保険会社の保険商品の契約金額総額はとてつもない金額となり、

一保険商品で、支払いをコミットメントする金額は数千億円にものぼりますので、

保険会社全体の抱えるリスクエックスポージャーは莫大な金額になるのです。

 

実際、過去に発売した高い予定利率の契約による満期金等の支払いが、保険会社の運用利回りを大きく上回ってしまったことで、支払いコミットメント履行出来なくなり、

1997年の日産生命、1999年の東邦生命と全部で7社もの生命保険が破綻しました。

幸い、すべての保険会社の保険内容を変更しながらも、

他の生命保険会社に引き継がれていますので、最悪の事態は回避されています。

f:id:supt:20170328172659j:plain

 

国際税務Vol.7 海外出向者に支払う留守宅手当の税務 ~日本の扶養家族に支払う留守宅手当の取扱い~

海外出向者に支払う留守宅手当の税務  

国際税務Vol.7

~日本の扶養家族に支払う留守宅手当の取扱い~

 

こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の宮崎です。

 

さて、今週は国際税務がテーマになります。

 

あるお客様から、下記のような質問がありました。

海外の子会社に従業員を5年ほど派遣する予定だが、

会社の規定で留守宅手当を支払うことになっている。この留守宅手当とは何ですか?

また、留守宅手当を支給した場合の税務を教えてください。」

 

さて、留守宅手当とは何でしょうか。また、税務の取扱いはどうなるのでしょうか。

 

留守宅手当とは、

留守宅手当は、「海外単身赴任手当」や「海外別居手当」、「残留家族特別加算」などの様々な名目で支払われることがあり、「国内社会保険料相当分」「国内残留家族生活費相当分」のいずれか、又は両方の意味合いで支払われます。

 

なぜ留守宅手当を支払うのか

では、留守宅手当が、どのような考えに基づいて設定され、

支給されているのか又それらの支給に関する留意点などを述べたいと思います。

 

国内社会保険料相当部分として支給される手当は、在籍出向させる場合、海外勤務中でも日本の社会保険料が発生するため、この社会保険料に相当する金額の補てんとして、会社が留守宅手当の中に含め為替変動によるリスクを回避できるよう配慮して円貨建てで支給し、会社はそこから個人負担分保険料を天引きすることになります。

 

国内残留家族対応分として支給される手当は、一部又は全ての家族が日本国内に残留した場合に支給される手当です。

こちらも為替変動によるリスクを回避するため円貨建てで支払われます。この手当は別居を余儀なくされることによる住居費、通信費、留守宅維持費用など日本で生ずる費用に対応する金額となります。

 

税務の取扱いは

留守宅手当の税務での取扱いですが、まず、この従業員が税法上、居住者に該当するのか、非居住者に該当するのか判定する必要があります。

税法上、居住者とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する者とされています。

また、非居住者とは、居住者以外の者とされています。

 

海外赴任の場合、海外赴任期間が1年以上の予定の者は、出国時に非居住者とされます。今回海外派遣する従業員は、5年間の予定で海外赴任しますので、出国時から非居住者に該当します。

 

非居住者は国内源泉所得のみが課税され、国外源泉所得は課税されないこととなっています。

今回支給する留守宅手当は、この従業員が海外で勤務をすることに基因して日本の家族に支給されます。

つまり、国外勤務を基因として行われるので、税法上は国外源泉所得となります。

したがって、この留守宅手当は、非居住者が受ける国外源泉所得となりますので、日本での課税はありません

 

海外で課税される可能性!?

日本で課税されないということで喜んではいけません。

海外勤務地の国で課税される可能性があります。

海外の国では、日本と同様に居住者には全世界所得を課税するという国が多いです。

 

今回の従業員は、日本では非居住者ですが、海外勤務地国では居住者になります。

そのため、海外勤務地国では全世界所得に課税される可能性があります。

この全世界所得には留守宅手当も例外ではないでしょう。

 

そのため、海外勤務地国での税法を調べ、納税が必要な場合は、必ず納税しましょう。

 

ここで、日本法人が直接日本の口座に支払っているのに、海外の税務当局は分かるの?と疑問を持たれる方もいると思います。

海外税務当局は、お金の動きは分かりませんが、留守宅手当制度の存在は把握していて、日本側で留守宅手当の支給がないか執拗に調べることもあります。

そのため、正しく納税しておいたほうが無難でしょう。f:id:supt:20170328170851j:plain

相続・事業承継Vol.7 一般社団法人と相続対策?~相続税の不当減少~(第3回)

一般社団法人と相続対策?

相続・事業承継Vol.7

相続税の不当減少~

 

こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の乾です。

5月になりかなり暖かくなりましたね。

ゴールデンウィークはいかがでしたでしょうか?

5月1日、2日を休まれた方は、9連休だったかと思います。

のんびりできて「また頑張ろう!」となりましたでしょうか。

5月の会計事務所はというと、とても忙しい月です。

GWで日がないのもありますし、日本の会社は3月決算が一番多いのが一番の原因です。

しかし、その流行が最近少し変わってきました。

海外を意識して12月への変更が多くなっているのです。

弊社のお客様もその流れがあります。

会計事務所としては、どちらの月も非常に忙しいので、

この偏りは悩ましい限りです。。。

 

さて、今回は前回の一般社団法人に贈与するスキームで最も注意をしなければならない

相続税の不当減少」とは、について見ていきたいと思います。

 

どのような場合に適用されるのかといいますと、

相続税法相続税法施行令に記載があります。

 

 

まず66条1項を見てみましょう。

『代表者又は管理者の定めのある人格のない社団又は財団に対し財産の贈与又は遺贈があつた場合においては、当該社団又は財団を個人とみなして、これに贈与税又は相続税を課する。

ここでは一般社団法人について書かれていません。

人格のない社団等という団体への贈与があった場合には、

その団体を個人とみなして贈与税又は相続税を課税すること、を規定しています。

 

そして相続税法66条4項です。

持分の定めのない法人に対し財産の贈与又は遺贈があつた場合において、当該贈与又は遺贈により当該贈与又は遺贈をした者の親族その他これらの者と第六十四条第一項に規定する特別の関係がある者相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときについて準用する。

単純に説明しますと、

Aさんが一般社団法人に贈与などをした場合に、

Aさんの親族の相続税や贈与税が不当に減少すると税務署が認めるときには

その一般社団法人を個人とみなして贈与税を課税します、

ということです。

 

しかし、具体的にどのような場合が不当に減少することになるのかは不明です。


そこで施行令33条3項を見てみましょう。

ここに具体的な不当な減少の事例が書いてあるのかというと、そうではなく、

逆接的に“このような場合には不当減少には当たらない”として規定されています。

 

ちょっと長ったらしく難しいので、簡便的に要件をタイトルだけ書きだしてみたいと思います。

役員のうち贈与した本人及び親族が占める割合は全体の1/3以下とすること

贈与した本人及び親族に特別の利益を与えないこと

解散した場合に、残余財産は国等へ帰属する旨を決めておくこと

法令違反をしていないこと

いかがでしょう?たった4つだけです。

しかし、①の要件がハードル高いですよね?

 

つまり、第三者もまじえて公益的な活動(例えば文化的な啓蒙活動、慈善事業など)を行ったり、

業界団体としてその業界のための活動を行うなど、個人の枠を超えた公益活動を行わなければ難しいということです。

 

また、この66条4項が怖いのは、当初はこの4つの条件を満たしていても、

運営を行う中で要件を満たさなくなると不当減少の規定が発動するという点です。

従いまして、設立段階、贈与時点、運営段階において十分な注意が必要となりますし、

個別通達にもっと細かい事が記載されていますので、簡単ではありません。

 

相続税がかからない場合というのは、そう簡単ではないということでした。

 

これでもご興味がある方は弊社までご連絡いただければ全面的にサポートさせていただきます!

 

※参考:施行令33条3

 『贈与又は遺贈により財産を取得した法第六十五条第一項 に規定する持分の定めのない法人が、次に掲げる要件を満たすときは、法第六十六条第四項 の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められないものとする。

一  その運営組織が適正であるとともに、その寄附行為、定款又は規則において、その役員等のうち親族関係を有する者及びこれらと次に掲げる特殊の関係がある者(次号において「親族等」という。)の数がそれぞれの役員等の数のうちに占める割合は、いずれも三分の一以下とする旨の定めがあること。

イ 当該親族関係を有する役員等と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者

ロ 当該親族関係を有する役員等の使用人及び使用人以外の者で当該役員等から受ける金銭その他の財産によって生計を維持しているもの

ハ イ又はロに掲げる者の親族でこれらの者と生計を一にしているもの

ニ 当該親族関係を有する役員等及びイからハまでに掲げる者のほか、次に掲げる法人の法人税法第二条第十五号 (定義)に規定する役員((1)において「会社役員」という。)又は使用人である者

(1) 当該親族関係を有する役員等が会社役員となっている他の法人

(2) 当該親族関係を有する役員等及びイからハまでに掲げる者並びにこれらの者と法人税法第二条第十号 に規定する政令で定める特殊の関係のある法人を判定の基礎にした場合に同号 に規定する同族会社に該当する他の法人

二  当該法人に財産の贈与若しくは遺贈をした者、当該法人の設立者、社員若しくは役員等又はこれらの者の親族等に対し、施設の利用、余裕金の運用、解散した場合における財産の帰属、金銭の貸付け、資産の譲渡、給与の支給、役員等の選任その他財産の運用及び事業の運営に関して特別の利益を与えないこと。

三  その寄附行為、定款又は規則において、当該法人が解散した場合にその残余財産が国若しくは地方公共団体又は公益社団法人若しくは公益財団法人その他の公益を目的とする事業を行う法人(持分の定めのないものに限る。)に帰属する旨の定めがあること。

四  当該法人につき法令に違反する事実、その帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装して記録又は記載をしている事実その他公益に反する事実がないこと』

 

f:id:supt:20170328172047j:plain

 

その他Vol.6 空き家に係る譲渡の特別控除~必要書類の準備はお早めに~

空き家に係る譲渡の特別控除

その他Vol.5

~必要書類の準備はお早めに~

 

こんにちは、SUパートナーズ税理士法人の木下です。

 

全国の空き家の数は平成25年時点で820万戸存在するようです。

実家を相続したのはいいが、現状空き家となってしまっている方も多いのでは

ないでしょうか?

 

今週はそんな空き家に関する譲渡所得税がテーマのSUレターです。

 

不要となった空き家を売却したとしても、税金がかからないかもしれません。

今回ご紹介するのは、空き家を譲渡した場合の特別控除についてです。

 

制度の概要

この規定は、亡くなった方が住んでいた空き家及び敷地を相続して、

その後その空き屋や敷地を譲渡した場合に、

その譲渡所得から3,000万円を特別控除することができます。

 

例えば、取得費が不明の空き家と敷地を800万円で譲渡した場合を考えてみましょう。

・この特別控除を使わないと

(800万円-40万円(取得費が不明のため、譲渡価額800万円の5%))×20%=152万円所得税と住民税がかかります。

・これが特別控除を使いますと

(800万円-40万円-3,000万円)×20%=0円所得税と住民税がかからずに売却することができます。

 

ただし、亡くなった方が住んでいた空き家であれば、全て控除の対象となるわけではありません。いくつかの要件がありますので見ていきましょう。

 

空き家の要件

空き家については、

昭和56年5月31日以前に建築されたものであり

・譲渡する際に、耐震性がある必要があります。

耐震性がないものについては、耐震リフォームをして売却するか

空き家を取壊して敷地のみを売却すれば適用を受けることができます。

なお、マンションについては対象外なので注意しましょう。

 

居住の要件

 亡くなった方が相続の開始の直前に住んでおり、それ以外の方が住んでいない

ことが必要です。そのため、亡くなった方が老人ホームに入居している場合は対象となりません

 また、空き家を相続してから譲渡するまでは事業、貸付、居住の用に供することができませんので注意しましょう。

 

譲渡の要件

相続発生日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ、平成31年12月31日までの譲渡が対象となります。

また、空き家と敷地の譲渡金額の合計が1億円以内の必要があります。

 

確定申告に向けて

確定申告の際には

・「登記事項証明書等」

・「耐震基準適合証明書等」

・「売買契約書の写し等」の他

・「被相続人居住用家屋等確認書」

が必要となります。

被相続人居住用家屋等確認書」については、空き家の所在地の市区町村に

被相続人居住用家屋等確認申請書」を必要書類と共に提出することにより入手できます。申請書や申請に必要な書類は国土交通省のHPから確認できます。

http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000030.html

申請から交付までには、数週間かからないようですが、住民票や売買契約書など複数の書類が必要となりますので、確定申告で適用される際には、早めに準備されることをお勧めします。

f:id:supt:20161028192944j:plain

国際税務Vol.6 台湾ともっと仲良くなれる?~日台租税協定が制定されました~

台湾ともっと仲良くなれる?

国際税務Vol.6

~日台租税協定が制定されました~

 

こんにちは。だんだん春めいてきましたね。

 

島国に住んでいるゆえなかなか気軽に海外旅行、というわけにはいかない日本人ですが、台湾は近いのでお勧めです。帰りは沖縄より近い?と感じるほど。

 

さて今週は日本台湾租税協定がテーマのSUレターです。

 

台湾と日本

親日国で有名な台湾、実際に行ってみると日本語を話せる人が多く、

ほのぼのとした雰囲気でとても居心地の良い国です。

しかしながら日本と台湾には正式な国交がなく、

今まで両国間には租税条約は締結されていませんでした。

 

租税条約締結

しかしこの度、民間レベルで租税条約に相当する内容をもりこんだ租税協定が

2015年11月26日に制定され、2016年6月13日に発効、2017年1月1日より

適用開始されることになりました。

今回この主体となったのは、

・日本側が公益財団法人交流協会

・台湾側が亜東関係協会

という民間団体です。

正式な国家間の条約ではないため、このままでは課税面で何の効力もありません

そこでこの取り決めを租税条約と同等に扱うための日本国内で法整備がなされました

 

租税条約ができる前は…

今までは両国間で二重課税が生じても解消する手段がなかったのですが、

これでようやく可能になります。

国際化社会の現代において、ビジネスにおける二重課税のリスクはたくさん潜んでいます。

 

例えば日本から台湾に出張した場合、日本においては居住者として全世界所得が課税となります。

一方台湾においては90日までは課税なしですが、91日目以降は滞在日数分の給与は非居住者の国内源泉所得として課税されます。

結果的に2つの国で課税されてしまうことになります。

 

これを解消するために、国税額控除制度というものがあるものの、わざわざ確定申告において手続きを取るのは面倒ですね。

 

租税条約の効果

租税条約があれば短期滞在者免税という規定により、

一定日数以下の滞在であれば滞在国の税金が免除されるシステムとなっています。

租税条約が無いということは、今まで日本―台湾間をまたいで仕事をすることの大きな足かせとなっていました。

 

しかし今後は滞在日数が年間183日を超えなければ、

やっと他国と同様に免税の恩恵が受けられることになりました。

これは個人にとってだけでなく、

従業員を派遣する企業にとってもより柔軟な計画が可能となるためメリットとなるでしょう。

 

また配当、利子、ロイヤリティーに関する源泉税率は10%となります(国内法では20%)。

これも両国の経済交流が活発になる要因になるでしょう。

多国籍グループ企業にとってもグループ内の資金調達、管理、技術サービスのやりとりがしやすくなります。

台湾に投資している日系企業が配当を増額しようとするかもしれません。

 

さらに、移転価格課税が行われた際、租税条約を締結していない国が相手だと、二重課税の調整が困難だったのですが、今後は双方の税務当局が移転価格調査を実施した際、相互協議手続により二重課税リスクを低減することが可能となります。

今後はビジネス面においても、どんどん台湾と交流を深めていきたいものです。

 

f:id:supt:20161028184029j:plain