SUレター

相続事業承継と国際税務のSUパートナーズ税理士法人

国際税務Vol.8 移転価格のリスク~保険は必要なのか?~

移転価格のリスク

国際税務Vol.8

~保険は必要なのか?~

 

こんにちは。

季節はずれの暑さが続き、梅雨へと突入するこの時期、体調を崩されたりしていないでしょうか。

そろそろ紫陽花の見ごろとなります。有名な鎌倉のお寺は激混みなので気合と体力が必要ですが、何気なく通りに咲いている紫陽花を眺めるのも風情があっていいものです。

 

国際取引をしていると、移転価格の問題とは無縁ではいられなくなります。

二国間による税金の取り合いという、仁義なき戦いです。

運悪くその渦に巻き込まれる前に、何か予防する方法はないものなのでしょうか?

 

さて今週は移転価格に関する事前確認制度がテーマのSUレターです。

 

予防するにはどうしたらいいかというと 

コスト意識の高いグローバル企業は各国の税率の違いに着目し、

より低い税率の国に所得を集めて節税しようとします。

関連者間であるがゆえに、取引価格の設定に自由度があるため、

その気になればかなり大胆な節税も可能となります。

しかしながらそういった行為は当然当局から許してもらえず、

移転価格税制が発足する運びとなりました。

 

移転価格税制のやっかいなところは、何をもって適正価格であるかを示すことが容易でない点にあります。

企業側に節税の意図はなくてもその設定価格にイチャモンをつけられ、

あれよあれよという間に多額の追徴課税を受けることもあるのです。

会社としては真面目な納税者でありたいと思っているのに、

ある日突然理不尽な課税を受ける不安を抱えながら海外取引をするのもストレスですね。

それがイヤだ!と感じる企業は事前確認制度(Advance Pricing Agreement –“APA”(某ホテルチェーンと同じ発音ではありません。通称”エーピーエー”といいます)を利用することを検討すべきかもしれません。

 

事前確認制度とは

これは、企業が今後数年間行う国外関連取引の価格設定について、

税務当局から事前に確認を取る制度となります。

このAPAを取得した場合、合意された移転価格算定方法に基づく納税を行う限り移転価格課税が行われることはありません。

いわば、税務当局から移転価格にお墨付きをもらうわけです。

 

この制度には一国内のユニラテラルAPA、二国間のバイラテラルAPA、さらには複数国間のマルチラテラルAPAがあります。

ユニラテラルAPAは自国内だけでの確認であるため、

外国の税務当局から課税を受けるリスクを回避することができません。

したがってほとんどがバイラテラルAPA(時にマルチラテラルAPA)となります。

 

導入は?

事前に予防できる制度があるなら、ぜひともすぐに取り入れたいのですが、

決して簡単なプロセスではないのがネックとなります。

 

二国、または複数国の税務当局の相互協議を経るため、

成立までにかなり時間を要します

また、必要な文書作成や当局との対応には相当の専門知識と経験が必要なため、

外部のアドバイザーの手を借りずに行うことはほぼ不可能となり、それなりのコストもかかります。

 

悩ましいところですが、通常の税務調査より遥かに会社側の負担がとても大きい移転価格調査を回避できるのであれば・・・費用対効果を考え、保険として導入することも一考の価値ありなのです。

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相続・事業承継Vol.8 賃貸不動産をお持ちの方へ。生命保険の活用を ~“相続対策”に一工夫~

賃貸不動産をお持ちの方へ。生命保険の活用を 

 相続・事業承継Vol.6

~“相続対策”に一工夫~

 

こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の押味です。

 

“相続対策なんてしない”はたまた“賃貸不動産で対策は十分だ!”

と思っている方は多いのではないでしょうか。

しかし、相続税を減らすこと=相続対策、ではありません。

また、財産をお持ちの方が実際に困難に直面するのは“納税”だけではありません。

 

今週はそんな生命保険を活用した賃貸不動産に関する対策がテーマのSUレターです。

生命保険といっても、節税ではございません。営業でもございません。

 

税金を減らす目的ではない

 結論から言うと、「生命保険を活用して、財産を保全しよう!」という内容です。

 「保険」と聞くと拒否反応が起きる方もいらっしゃるかもしれません。

社長様や資産家の方には、多くの営業が入りますので嫌気がさしているのかもしれません。 

大丈夫です、営業でも、節税目的のアグレッシブな内容でもございません。

 

賃貸不動産のリスクとされるのは、つまり何か?

 まず、賃貸不動産を持つことに関する大きな不安とその本質を考えてみます。

  • 修繕費負担…修繕を定期的に行う必要がある
  • 納税に苦しむ…財産の大半が不動産だと現金化できない
  • 争続の元…不動産は分割できないし、共有は避けたい

 このあたりでしょうか。これらの本質は何か。それは「現金・収入」があれば解決することです。

さらに言えば、こういったお金について、「計画的に準備できれば、解決される」といえる点に、肝があります。

 

何年でも何十年であろうと計画的に準備ができる方はこれ以降のお話は必要ありません。しかし、お金は、あると使ってしまうのが人の性です。

お金には色がついていません。また、相続は突然起きます。

 

そこで生命保険を活用

どのように生命保険を活用するのかというと、賃貸不動産の特徴、長所を生かすことです。

特徴…修繕費は、“修繕計画”である程度時期が見込める

長所…毎月収入がある(入居率にもよりますが、当初は高入居率のはず…)

 

 これらの特徴や長所を活かして、例えば次のように考えます。

  • 解約の時期を見越して、修繕予定の前に払い込みが終わる保険(短期払い)に加入して、修繕費対策
  • 法人を通して物件を保有している場合には、長期平準定期保険に加入し退職金に充てて、納税資金対策!
  • 財産の承継者から他の相続人への代償分割(不動産はAさんがもらう代わりに、現金をAさんからBさんやCさんに渡すこと)で、争続対策

 

いかがでしょうか?

他にも考え方次第で工夫の余地はたくさんあります。

 

賃貸不動産を持つことが相続税(節税)対策として機能することは事実だと思います。

ただ、デメリット(借入金や上記のようなリスク)も昨今話題になっています。

 

せっかくの資産や対策を、もう一工夫して安心して更に有効なものにしてはいかがでしょうか。

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その他Vol.7 生命保険商品への驚き、再認識 (1)

生命保険商品への驚き、再認識 (1)

~その他Vol.7~

超長期のコミットメント


今回は税理士の阿部が担当します。

 

銀行員時代の先輩の縁がもとで、とある生命保険会社の社外取締役に就任いたしました。

それまで、税務の面から生命保険の関係することはあっても、

正直生命保険には全くと言っていいほど関心もなく、内容がよくわからず、

どちらかというと敬遠している分野でした。

しかし、お引き受けする以上は、と生命保険の勉強を始めてみると、

この分野の凄さに驚かされました。

 

まず、生命保険契約は、保険料を払い込んで貰い、保険事由が発生した場合に保険金を支払うという超長期に渡る支払いコミットメント行っていることです。

 

痩せる結果をコミットメントする会社がありますが、

結果がでなければお金を返金するというコミットメント商売がオオハヤリです。

 

生命保険は受け取った保険料を一定の利回りで運用し、5年、10年、20年、

時に30年以上に渡り、保険事由が発生したならば必ず保険支払いをコミットメントするという、超長期間のコミットメント契約だということです。

 

金利情勢、為替情勢、経済が日々激動する中にあって、

一定の利回りを確保する生命保険は何というリスク引き受けのビジネスなのか改めて脅かされるばかりです。

このような、超長期のコミットメントをする金融ビジネスは外にないでしょう。


銀行で取り扱っている定期預金でさえ3年や5年といった期間の支払いのコミットメントです。

銀行間の貸借においては、コール市場でオーバーナイトという一夜越しの貸借もあり、

とても生命保険のように超長期の支払いをコミットメントする金融ビジネスはないのです。

保険商品は全く驚きの金融商品です。

 

そして、一旦保険商品を販売すると一契約金額が数百万円から数千万円、

時に億にはものぼるので、保険会社の保険商品の契約金額総額はとてつもない金額となり、

一保険商品で、支払いをコミットメントする金額は数千億円にものぼりますので、

保険会社全体の抱えるリスクエックスポージャーは莫大な金額になるのです。

 

実際、過去に発売した高い予定利率の契約による満期金等の支払いが、保険会社の運用利回りを大きく上回ってしまったことで、支払いコミットメント履行出来なくなり、

1997年の日産生命、1999年の東邦生命と全部で7社もの生命保険が破綻しました。

幸い、すべての保険会社の保険内容を変更しながらも、

他の生命保険会社に引き継がれていますので、最悪の事態は回避されています。

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国際税務Vol.7 海外出向者に支払う留守宅手当の税務 ~日本の扶養家族に支払う留守宅手当の取扱い~

海外出向者に支払う留守宅手当の税務  

国際税務Vol.7

~日本の扶養家族に支払う留守宅手当の取扱い~

 

こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の宮崎です。

 

さて、今週は国際税務がテーマになります。

 

あるお客様から、下記のような質問がありました。

海外の子会社に従業員を5年ほど派遣する予定だが、

会社の規定で留守宅手当を支払うことになっている。この留守宅手当とは何ですか?

また、留守宅手当を支給した場合の税務を教えてください。」

 

さて、留守宅手当とは何でしょうか。また、税務の取扱いはどうなるのでしょうか。

 

留守宅手当とは、

留守宅手当は、「海外単身赴任手当」や「海外別居手当」、「残留家族特別加算」などの様々な名目で支払われることがあり、「国内社会保険料相当分」「国内残留家族生活費相当分」のいずれか、又は両方の意味合いで支払われます。

 

なぜ留守宅手当を支払うのか

では、留守宅手当が、どのような考えに基づいて設定され、

支給されているのか又それらの支給に関する留意点などを述べたいと思います。

 

国内社会保険料相当部分として支給される手当は、在籍出向させる場合、海外勤務中でも日本の社会保険料が発生するため、この社会保険料に相当する金額の補てんとして、会社が留守宅手当の中に含め為替変動によるリスクを回避できるよう配慮して円貨建てで支給し、会社はそこから個人負担分保険料を天引きすることになります。

 

国内残留家族対応分として支給される手当は、一部又は全ての家族が日本国内に残留した場合に支給される手当です。

こちらも為替変動によるリスクを回避するため円貨建てで支払われます。この手当は別居を余儀なくされることによる住居費、通信費、留守宅維持費用など日本で生ずる費用に対応する金額となります。

 

税務の取扱いは

留守宅手当の税務での取扱いですが、まず、この従業員が税法上、居住者に該当するのか、非居住者に該当するのか判定する必要があります。

税法上、居住者とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する者とされています。

また、非居住者とは、居住者以外の者とされています。

 

海外赴任の場合、海外赴任期間が1年以上の予定の者は、出国時に非居住者とされます。今回海外派遣する従業員は、5年間の予定で海外赴任しますので、出国時から非居住者に該当します。

 

非居住者は国内源泉所得のみが課税され、国外源泉所得は課税されないこととなっています。

今回支給する留守宅手当は、この従業員が海外で勤務をすることに基因して日本の家族に支給されます。

つまり、国外勤務を基因として行われるので、税法上は国外源泉所得となります。

したがって、この留守宅手当は、非居住者が受ける国外源泉所得となりますので、日本での課税はありません

 

海外で課税される可能性!?

日本で課税されないということで喜んではいけません。

海外勤務地の国で課税される可能性があります。

海外の国では、日本と同様に居住者には全世界所得を課税するという国が多いです。

 

今回の従業員は、日本では非居住者ですが、海外勤務地国では居住者になります。

そのため、海外勤務地国では全世界所得に課税される可能性があります。

この全世界所得には留守宅手当も例外ではないでしょう。

 

そのため、海外勤務地国での税法を調べ、納税が必要な場合は、必ず納税しましょう。

 

ここで、日本法人が直接日本の口座に支払っているのに、海外の税務当局は分かるの?と疑問を持たれる方もいると思います。

海外税務当局は、お金の動きは分かりませんが、留守宅手当制度の存在は把握していて、日本側で留守宅手当の支給がないか執拗に調べることもあります。

そのため、正しく納税しておいたほうが無難でしょう。f:id:supt:20170328170851j:plain

相続・事業承継Vol.7 一般社団法人と相続対策?~相続税の不当減少~(第3回)

一般社団法人と相続対策?

相続・事業承継Vol.7

相続税の不当減少~

 

こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の乾です。

5月になりかなり暖かくなりましたね。

ゴールデンウィークはいかがでしたでしょうか?

5月1日、2日を休まれた方は、9連休だったかと思います。

のんびりできて「また頑張ろう!」となりましたでしょうか。

5月の会計事務所はというと、とても忙しい月です。

GWで日がないのもありますし、日本の会社は3月決算が一番多いのが一番の原因です。

しかし、その流行が最近少し変わってきました。

海外を意識して12月への変更が多くなっているのです。

弊社のお客様もその流れがあります。

会計事務所としては、どちらの月も非常に忙しいので、

この偏りは悩ましい限りです。。。

 

さて、今回は前回の一般社団法人に贈与するスキームで最も注意をしなければならない

相続税の不当減少」とは、について見ていきたいと思います。

 

どのような場合に適用されるのかといいますと、

相続税法相続税法施行令に記載があります。

 

 

まず66条1項を見てみましょう。

『代表者又は管理者の定めのある人格のない社団又は財団に対し財産の贈与又は遺贈があつた場合においては、当該社団又は財団を個人とみなして、これに贈与税又は相続税を課する。

ここでは一般社団法人について書かれていません。

人格のない社団等という団体への贈与があった場合には、

その団体を個人とみなして贈与税又は相続税を課税すること、を規定しています。

 

そして相続税法66条4項です。

持分の定めのない法人に対し財産の贈与又は遺贈があつた場合において、当該贈与又は遺贈により当該贈与又は遺贈をした者の親族その他これらの者と第六十四条第一項に規定する特別の関係がある者相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められるときについて準用する。

単純に説明しますと、

Aさんが一般社団法人に贈与などをした場合に、

Aさんの親族の相続税や贈与税が不当に減少すると税務署が認めるときには

その一般社団法人を個人とみなして贈与税を課税します、

ということです。

 

しかし、具体的にどのような場合が不当に減少することになるのかは不明です。


そこで施行令33条3項を見てみましょう。

ここに具体的な不当な減少の事例が書いてあるのかというと、そうではなく、

逆接的に“このような場合には不当減少には当たらない”として規定されています。

 

ちょっと長ったらしく難しいので、簡便的に要件をタイトルだけ書きだしてみたいと思います。

役員のうち贈与した本人及び親族が占める割合は全体の1/3以下とすること

贈与した本人及び親族に特別の利益を与えないこと

解散した場合に、残余財産は国等へ帰属する旨を決めておくこと

法令違反をしていないこと

いかがでしょう?たった4つだけです。

しかし、①の要件がハードル高いですよね?

 

つまり、第三者もまじえて公益的な活動(例えば文化的な啓蒙活動、慈善事業など)を行ったり、

業界団体としてその業界のための活動を行うなど、個人の枠を超えた公益活動を行わなければ難しいということです。

 

また、この66条4項が怖いのは、当初はこの4つの条件を満たしていても、

運営を行う中で要件を満たさなくなると不当減少の規定が発動するという点です。

従いまして、設立段階、贈与時点、運営段階において十分な注意が必要となりますし、

個別通達にもっと細かい事が記載されていますので、簡単ではありません。

 

相続税がかからない場合というのは、そう簡単ではないということでした。

 

これでもご興味がある方は弊社までご連絡いただければ全面的にサポートさせていただきます!

 

※参考:施行令33条3

 『贈与又は遺贈により財産を取得した法第六十五条第一項 に規定する持分の定めのない法人が、次に掲げる要件を満たすときは、法第六十六条第四項 の相続税又は贈与税の負担が不当に減少する結果となると認められないものとする。

一  その運営組織が適正であるとともに、その寄附行為、定款又は規則において、その役員等のうち親族関係を有する者及びこれらと次に掲げる特殊の関係がある者(次号において「親族等」という。)の数がそれぞれの役員等の数のうちに占める割合は、いずれも三分の一以下とする旨の定めがあること。

イ 当該親族関係を有する役員等と婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者

ロ 当該親族関係を有する役員等の使用人及び使用人以外の者で当該役員等から受ける金銭その他の財産によって生計を維持しているもの

ハ イ又はロに掲げる者の親族でこれらの者と生計を一にしているもの

ニ 当該親族関係を有する役員等及びイからハまでに掲げる者のほか、次に掲げる法人の法人税法第二条第十五号 (定義)に規定する役員((1)において「会社役員」という。)又は使用人である者

(1) 当該親族関係を有する役員等が会社役員となっている他の法人

(2) 当該親族関係を有する役員等及びイからハまでに掲げる者並びにこれらの者と法人税法第二条第十号 に規定する政令で定める特殊の関係のある法人を判定の基礎にした場合に同号 に規定する同族会社に該当する他の法人

二  当該法人に財産の贈与若しくは遺贈をした者、当該法人の設立者、社員若しくは役員等又はこれらの者の親族等に対し、施設の利用、余裕金の運用、解散した場合における財産の帰属、金銭の貸付け、資産の譲渡、給与の支給、役員等の選任その他財産の運用及び事業の運営に関して特別の利益を与えないこと。

三  その寄附行為、定款又は規則において、当該法人が解散した場合にその残余財産が国若しくは地方公共団体又は公益社団法人若しくは公益財団法人その他の公益を目的とする事業を行う法人(持分の定めのないものに限る。)に帰属する旨の定めがあること。

四  当該法人につき法令に違反する事実、その帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装して記録又は記載をしている事実その他公益に反する事実がないこと』

 

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その他Vol.6 空き家に係る譲渡の特別控除~必要書類の準備はお早めに~

空き家に係る譲渡の特別控除

その他Vol.5

~必要書類の準備はお早めに~

 

こんにちは、SUパートナーズ税理士法人の木下です。

 

全国の空き家の数は平成25年時点で820万戸存在するようです。

実家を相続したのはいいが、現状空き家となってしまっている方も多いのでは

ないでしょうか?

 

今週はそんな空き家に関する譲渡所得税がテーマのSUレターです。

 

不要となった空き家を売却したとしても、税金がかからないかもしれません。

今回ご紹介するのは、空き家を譲渡した場合の特別控除についてです。

 

制度の概要

この規定は、亡くなった方が住んでいた空き家及び敷地を相続して、

その後その空き屋や敷地を譲渡した場合に、

その譲渡所得から3,000万円を特別控除することができます。

 

例えば、取得費が不明の空き家と敷地を800万円で譲渡した場合を考えてみましょう。

・この特別控除を使わないと

(800万円-40万円(取得費が不明のため、譲渡価額800万円の5%))×20%=152万円所得税と住民税がかかります。

・これが特別控除を使いますと

(800万円-40万円-3,000万円)×20%=0円所得税と住民税がかからずに売却することができます。

 

ただし、亡くなった方が住んでいた空き家であれば、全て控除の対象となるわけではありません。いくつかの要件がありますので見ていきましょう。

 

空き家の要件

空き家については、

昭和56年5月31日以前に建築されたものであり

・譲渡する際に、耐震性がある必要があります。

耐震性がないものについては、耐震リフォームをして売却するか

空き家を取壊して敷地のみを売却すれば適用を受けることができます。

なお、マンションについては対象外なので注意しましょう。

 

居住の要件

 亡くなった方が相続の開始の直前に住んでおり、それ以外の方が住んでいない

ことが必要です。そのため、亡くなった方が老人ホームに入居している場合は対象となりません

 また、空き家を相続してから譲渡するまでは事業、貸付、居住の用に供することができませんので注意しましょう。

 

譲渡の要件

相続発生日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで、かつ、平成31年12月31日までの譲渡が対象となります。

また、空き家と敷地の譲渡金額の合計が1億円以内の必要があります。

 

確定申告に向けて

確定申告の際には

・「登記事項証明書等」

・「耐震基準適合証明書等」

・「売買契約書の写し等」の他

・「被相続人居住用家屋等確認書」

が必要となります。

被相続人居住用家屋等確認書」については、空き家の所在地の市区町村に

被相続人居住用家屋等確認申請書」を必要書類と共に提出することにより入手できます。申請書や申請に必要な書類は国土交通省のHPから確認できます。

http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000030.html

申請から交付までには、数週間かからないようですが、住民票や売買契約書など複数の書類が必要となりますので、確定申告で適用される際には、早めに準備されることをお勧めします。

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国際税務Vol.6 台湾ともっと仲良くなれる?~日台租税協定が制定されました~

台湾ともっと仲良くなれる?

国際税務Vol.6

~日台租税協定が制定されました~

 

こんにちは。だんだん春めいてきましたね。

 

島国に住んでいるゆえなかなか気軽に海外旅行、というわけにはいかない日本人ですが、台湾は近いのでお勧めです。帰りは沖縄より近い?と感じるほど。

 

さて今週は日本台湾租税協定がテーマのSUレターです。

 

台湾と日本

親日国で有名な台湾、実際に行ってみると日本語を話せる人が多く、

ほのぼのとした雰囲気でとても居心地の良い国です。

しかしながら日本と台湾には正式な国交がなく、

今まで両国間には租税条約は締結されていませんでした。

 

租税条約締結

しかしこの度、民間レベルで租税条約に相当する内容をもりこんだ租税協定が

2015年11月26日に制定され、2016年6月13日に発効、2017年1月1日より

適用開始されることになりました。

今回この主体となったのは、

・日本側が公益財団法人交流協会

・台湾側が亜東関係協会

という民間団体です。

正式な国家間の条約ではないため、このままでは課税面で何の効力もありません

そこでこの取り決めを租税条約と同等に扱うための日本国内で法整備がなされました

 

租税条約ができる前は…

今までは両国間で二重課税が生じても解消する手段がなかったのですが、

これでようやく可能になります。

国際化社会の現代において、ビジネスにおける二重課税のリスクはたくさん潜んでいます。

 

例えば日本から台湾に出張した場合、日本においては居住者として全世界所得が課税となります。

一方台湾においては90日までは課税なしですが、91日目以降は滞在日数分の給与は非居住者の国内源泉所得として課税されます。

結果的に2つの国で課税されてしまうことになります。

 

これを解消するために、国税額控除制度というものがあるものの、わざわざ確定申告において手続きを取るのは面倒ですね。

 

租税条約の効果

租税条約があれば短期滞在者免税という規定により、

一定日数以下の滞在であれば滞在国の税金が免除されるシステムとなっています。

租税条約が無いということは、今まで日本―台湾間をまたいで仕事をすることの大きな足かせとなっていました。

 

しかし今後は滞在日数が年間183日を超えなければ、

やっと他国と同様に免税の恩恵が受けられることになりました。

これは個人にとってだけでなく、

従業員を派遣する企業にとってもより柔軟な計画が可能となるためメリットとなるでしょう。

 

また配当、利子、ロイヤリティーに関する源泉税率は10%となります(国内法では20%)。

これも両国の経済交流が活発になる要因になるでしょう。

多国籍グループ企業にとってもグループ内の資金調達、管理、技術サービスのやりとりがしやすくなります。

台湾に投資している日系企業が配当を増額しようとするかもしれません。

 

さらに、移転価格課税が行われた際、租税条約を締結していない国が相手だと、二重課税の調整が困難だったのですが、今後は双方の税務当局が移転価格調査を実施した際、相互協議手続により二重課税リスクを低減することが可能となります。

今後はビジネス面においても、どんどん台湾と交流を深めていきたいものです。

 

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相続・事業承継Vol.6 一般社団法人と相続対策?~一般社団法人の活用~

一般社団法人と相続対策?

相続・事業承継Vol.6

一般社団法人の活用~

 

こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の乾です。

4月になり新年度スタートですね。

 

改正された新税制がスタートするため、これから上場会社さんのお客様から少しずつ質問が出てきたりします。

自分の中でもまだしっくりきていない新税制を回答するのは非常に神経を使います。

しかし、人間追い込まれないと何事もできないものです(泣)。上場会社のお客様があるから町の税理士事務所よりは少し早めに身につくのでしょうね。頑張りたいと思います!

 

 今回は、前回の「一般社団法人の概要」

 

supt.hatenablog.com

 

に続き、具体的にどう使っていくかを見ていきたいと思います。

 

相続税対策を考える際に個人の資産を法人に移す方法は昔から使われています。
この法人を、株式会社などではなく一般社団法人で行おうというのが今回ご紹介する方法です。

パターン1

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個人の財産を一般社団法人贈与するパターンです。

贈与して財産が一般社団法人に移れば、

その財産は個人のものではありませんので相続税の対象外となります

 

ここで考えなければいけないことがいくつかあります。

まずは、一般社団法人の性格を2階型の非営利又は共益型としなければ、

一般社団法人側で受贈益が計上され法人税等が課税されます。

 

 

 

次に、移転する資産に含み益がある場合には、

その個人にみなし譲渡所得税所得税法59条)がかかります

この場合個人は対価をもらっていませんが、

法人に時価で譲渡したとして含み益に課税されますので、

移転資産の選定には注意が必要です。

 

そして、一番注意しなければならないのは

個人の相続税、贈与税の不当減少(相続税法66条4項)と判断されないかどうかです。

もしそのように事実認定された場合には、

一般社団法人を個人とみなして贈与税が課される

(同時に課税される法人税は控除されるため二重課税にはなりません)

こともありますので、その設立運営には充分な注意が必要となります。

従いまして、税金を回避したいだけの理由ではかなりハードルの高いスキームとなります。

 

パターン2

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個人の資産を一般社団法人譲渡する方法です。

こちらも移転した財産については、

個人のものではありませんので相続の対象外となる点は変わりませんが、

譲渡であるため対価(金銭又は債権)をもらいますので、

その金銭又は債権についてどうするか、ということはあります。

 

このスキームの場合、一般社団法人基本的に1階、2階型のどちらでも構いません
ここで考えなければいけないのは譲渡価額です。


時価であれば個人側、法人側ともに税務上問題ありません。
時価以外(低額)で譲渡した場合に、

みなし譲渡(所得税法59条)の規定の適用に注意すべきこととなりますし、

一般社団法人側では時価との差額について受贈益課税されることになります。

 

しかし、その一族として継承していきたい財産がある場合などに有効なスキームです。

個人が一般社団法人の持ち分を持たないという特徴から、

移転後については相続税の対象範囲からは外れることになるというのが、

株式会社などを利用する場合とまったく違う点ですね。

 

最近の上場会社の株主を見ていると、一般社団法人○○○といった株主が出てくることも多くなりました。

これはおそらく創業家の株式を持分のない一般社団法人に移しているのだと思われます。

株価が上がっても個人の財産とは無関係となりますから、

相続税のことを気にせず業務に邁進できます。

 

これからは一般社団法人での起業もありかもしれません。

 

最後に、パターン1の「相続税を不当に減少する場合」とは?とひっかかっている方もいらっしゃると思います。

これについては、次回のSUレターでご紹介したいと思います。
  

※SUレター発行日現在の法令により記載しておりますが、将来の改正及び財産評価基本通達6項(この通達の定めによりがたい場合の評価)の適用がある可能性もございます。

(この通達の定めによりがたい場合の評価)

この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する

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その他Vol.5 外国人を雇うときはここをチェック!~知らずに不法就労させてしまったら!?~

外国人を雇うときはここをチェック!

その他Vol.5

~知らずに不法就労させてしまったら!?~

 

こんにちは。SUパートナーズ税理士法人の新宮です。

 

平成24年7月から新しい在留管理制度が導入されております。

外国人を雇用するときの確認方法が変わっておりますので、確認しておきましょう!

 

さて今週は雇用関係のSUレターです。

知らずに不法就労させてしまっていたら処罰の対象に!?

外国人を雇うときはここをチェック!

 

新しい「在留カード」とは?

これまでの「外国人登録証明書」に代わって、新しく「在留カード」が発行されることになりました。「在留カード」とは、外国人が3カ月以上日本に滞在する権利を証明する許可証と考えれば分かりやすいかと思います。

これは、不法就労を防ぐ目的で導入されたもので、外国人を雇用するときは、必ず「在留カード」の内容を確認します。

 また、在留カードには、偽変造防止のためのICチップが搭載され、カード面に記載された事項の全部または一部が記録されるしくみになっています。

 

こんなケースは不法就労です!

オーバーステイをして働いている場合

 不法就労というと、密入国者をイメージしてしまうかもしれませんが、それだけではありません。そもそも正規の在留資格のある人が、オーバーステイをして働いているケースも不法就労にあたります。外国人の方で在留期間の更新をせず、与えられた在留期限を過ぎてしまっている場合がありますのでご注意ください。

 

②観光や知人訪問の目的で入国した人が働く場合

 これも不法就労になります。また、留学生が許可を得ずにアルバイトをすることも不法就労となります。このように、入国管理局から働く許可を受けずに働くケースは不法就労になってしまいます。

 

③入国管理局から許可された就労範囲を超えて働く場合

 たとえば、外国料理店でコックとして働くことを認められた人が、まったく違う工場で単純労働をしている場合なども不法就労になります。

 

在留カードの確認を怠ると会社にも責任が!?

 外国人を採用するとき、ついつい「在留カード」の確認が後回しになってしまうことがあるようです。たとえ採用した外国人が不法就労であることを会社が知らなかったとしても「在留カード」の内容を確認していないといった過失があると、事業主が処罰を受けることになります。この場合、「3年以下の懲役、または300万円以下の罰金」が科せられることがありますので、雇用する前に必ず「在留カード」を確認しましょう。

国際税務Vol.5 イギリスにおけるこれからのビジネス~EU離脱に伴う税務の影響~

イギリスにおけるこれからのビジネス

国際税務Vol.5

~EU離脱に伴う税務の影響~

 

こんにちは。だいぶ春の気配を感じるようになってきました。

早くお花見に行きたくてソワソワしています!

 

海外を旅していると、いろいろなことを考えさせられます。

改めて日本の良さに気づくこともあれば、深く反省させられることも。

広い世界を見ることによって自分の世界も広がります。

やっぱり日本は狭いです。

若者たちにはどんどん旅に出て視野を広げてほしいと思う今日この頃です。

 

さて今週はイギリスのEU離脱がテーマのSUレターです。

 

ヨーロッパを旅していて思うのは移動の自由の素晴らしさです。

異なる言語を使う国へ電車やバス一本で行け、入国審査もなく、

まるで国内間の移動のように気軽に海外旅行ができるのです。

旅行だけではなく、その自由度は仕事や学校にも及びます。

島国に住む日本人にとっては驚くべきことですが、現地の人たちにとってはそれが当たり前なのです。

自分もEUパスポートが欲しい、と何度思ったことか。

たまたまヨーロッパ旅行中に聞いたイギリスEU離脱のニュースは、

なんてもったいない!というのが正直な感想です。

 

税務面での影響

イギリスがEUを離脱するにあたり、税務面で影響があると言われているのが間接税です。

特に付加価値税(Value Added Tax:「VAT」)や関税は、EUレベルでその制度や枠組みが定められています。

 

関税 について

EU関税同盟はEU域内における物品の自由移動を実現するもので、域内の関税や通関手続きは撤廃されています。

EUから離脱した場合、当然このEU関税同盟からも外れることになるので、

イギリスとEUは外国同士となり、EUとの取引が輸出入とみなされます。

企業にとっては、関税徴収、通関手続きなど煩雑な手間と追加コストがかかることになります。

 

VATについて

VATについては、EU域内のVAT指令により標準税率、軽減税率、免税、

課税タイミング等について共通ルールが適用されており、

イギリスはそれを国内法に反映しているため、大きな混乱が起こることはなさそうです。

ただし、EU加盟国でなくなることで適用されなくなる規則の改定は必要となります。

 

また、EUを離脱することによりEU加盟国との取引が輸出入取引となり、

インボイス手続きや報告手続きが変更される可能性があります。

更にEU各国でVAT課税事業者の登録や納税代理人の任命などが必要になります。

関税と同様に、企業にとっては手間と追加コストを強いられることになります。

 

日本との関連

日本においてイギリスに拠点を持っている企業は意外に多いそうです。

その理由の一つとして、EU加盟国に対し関税を払うことなく貿易をすることが可能だということがあります。

今後はそのメリットが失われるわけなので、拠点の再配置など、

ヨーロッパにおける経営戦略の見直し、検討が必要になってくるかと思います。

その他にもITシステムの変更や、

VAT税率変更の可能性を視野に入れた販売戦略の再検討も必要ですね。

 

海外展開する企業にとって他人事とはいえないこの件、

時間はあっという間に過ぎてしまうので、早急な対応が必要となりそうです。

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